日本がバブル景気に浮かれていた初年代末、都市から都市を駆け抜けていったあの人面犬は、実在していたのだろうか?
1988年目月日目、TBSラジオの人気深夜番組「スーパーギャング・ティーンズダイアル」が人面犬の特集を組むや、すごい反響で一気に騒ぎが全国に広がった。
ちなみに、当日ラジオ局には、直接見たという人目名を含む150人以上から報告が寄せられ電話の受付時間中ベルが鳴りっぱなしだったという。
人面犬の始まり
事の起こりは、少女向け月刊雑誌「ポップティーン」の記者が、ラジオの持ちコーナーで拾った話題として、読者が投稿してきた恐怖体験を紹介したことに始まる。
人面犬目撃という面白いネタでもあったし、霊体験ネタには慣れていたA記者も、いつになく喋りに力が加わったのか迫真性が出て、スタジオは人面犬で盛り上がり、リスナーからもすぐさま反響があった。
そして、「ポップティーン」にも同様のネタがたくさん寄せられるようになった。
そこで、編集部は、寄せられたネタの中から、信憲性が高いと判断した目撃談を「ポップティーン」9月号に掲載した。
「友だちから聞いた話なのですが、レストランのコックさんが、夜、あさゴミを捨てにいったつら、ゴミを漁っている犬がいたそうです。そこでコックさんはシッ、シッといって追い払ったんですが、犬はどきません。そこで、うるさい!あっち行け!と殴ろうとしたら、犬が急に振り向いて、うるせーんだよその犬の顔は人間でそういい残してどこかに消えたそうです」
人面犬の特徴
これをきっかけに、全国の読者から編集部に人面犬情報が続々と寄せられるようになった。
当時、寄せられた情報から、人面犬の特徴をまとめると、次のようになる。
柴犬のような小型犬で顔が老人というパターンが多い。
おもに夕方、墓地や公固などに出没する。時速130キロ以上で走れる。
6メートルは軽くジャンプして、ムササビのようにビルとビルの聞を空中飛行する。緑色の糞をする。
パカにしたらタタりがあった。
人間に会うと「うるせえな」「ほっといてくれ」「なんだ、人聞か」「勝手だろ」などの捨てゼリフを吐いて立ち去る。
噛まれると必ず腐って、手や足を切断しなければならなくなる。
人面犬の正体
そして、人面犬の正体についての情報は次のとおりだ。
筑波大学で行われた遺伝子実験で、誤って犬と研究者のDNAをかけあわせた結果、生まれたものが逃げた。
族に犬もろともひき殺された人の霊。
9年ほど前に湘南で水死したサーファーの霊が成仏できずに犬に乗り移った。
ペットショップで中絶された犬の水子の霊が、勝手なことをする人聞を憎んで現われている。
事故死した若者の霊が野犬に取り濃いた。
「ポップティーン」誌は、1989年4月号の「最後の人面犬リポート」で、実際に人面犬を見たと報告してきた読者印人を取材し、その証言をまとめている。
人面犬の正体を探るうえで興味深いデータばかりで、人面犬の特徴として、新たに次の4つのことが判明した。
①人面犬は霊感の強い者に見える。友だちと一緒に見た場合、必ずしも2人に見えるとは限らない。幽霊が全員に見えないように、霊感の強い者のみに見えるらしい。
②人面犬はl匹ではない。1988年日月日日に3例(大阪府八尾市、青森県八戸市、北海道江別市)、1989年1月刊日に2例(東京都豊島区、三重県伊勢市)の目撃例があり、複数の人面犬が目撃されている。
③人面犬は自分たちが話題になっているのを知っている。埼玉県川越市で目撃した高校2年生のY子さんは、人面犬に話しかけたという。「私が勇気をだして人面犬に、あなたは何者ですか」とたずねると、人面犬は「いまはいえない。でも、人間に話題にされて最近は生活しづらいんだ」といった。
Y子さんのほか、人面犬に話しかけた人は、東京で2人、石川県でl人、岡山県でl人。しかし、いずれも、人面犬の正体を明らかにする証言は得られていない。
④人面犬は人間に危害を加えない。直接「私が襲われた」との証言はないし、人面犬と遭遇した印人の中にも、実際に人面犬に襲われた者はいない。
人面犬の考察
「4つの新たな特徴をみると、実際に目撃された人面犬の正体がおぼろげながら見えてくる。
まず人面犬は、霊感の強い者に見える(1990年、鼠強都市伝説山口直樹・著「怪奇/人面の呪い」(ニ見・房刊)という①の証言から、若者たちが見たのは人面犬の幻影と推測できる。
これは人面犬はl匹ではないという②の報告とも矛盾しない。実際に複数の人面犬がいたなら、実在を証明する何らかの証拠が得られるはずだが、何ひとつ痕跡を残さない。
人面犬を幻影とするとN人面犬は人間に危害を加えないという④の報告も人面犬と話したHという③の証言も納得できる。
幻影は、人を驚かすことはあっても、実際には傷つけることはできない。そして、幻影なのだから、見た者の感性によって話しかけもするだろう」人面犬を幻影とするなら、それは、若者のどういう心を投影した幻影なのだろう。
若者の心を投影した幻影の考察
「まず、体は犬で、体は人間というその姿だが、これは、自由を制限されている若者たちが自らの姿を見ている現われかもしれない。単なる犬の化物ではなく、顔は人というのが、それを暗示している」
人面犬は1979年に日本で公開されたアメリカのSF映画「SF/ボディスナッチャー」に人面犬が登場していたことも影響しているという説もある。
この映画は、エイリアンが地球を侵略しようと、人間のクローンをつくり、ひとりずっ人間とすり替えていくという物語だ。
そのなかで、人聞を犬のごとくクローン化してしまった失敗作の人面犬が、登場する。
これはかなりショッキングなイメージで、見た者の心に深く焼きついたはずだ。この作品は今までに何度かテレビで放映されているので、ご覧になった方も多いのではないだろうか。
人面犬の正体
つまり、このイメージがもとで、若者たちが、拘束された自らの姿を抽象化した存在として、人面犬が生まれたのではないか、ともいわれている。
そして、人面犬が人間に向かっていうセリフ、
「うるせーんだよ」「ほっといてくれ」「勝手だろ」
も、この説を裏づけるという。
つまり、校則に縛られ、偏差値によって将来が決定されてしまう若者の叫びを、人面犬が代弁しているのだ、と。
人面犬騒動の真相は、若者特有の遊びで、人面犬は実在しないとされている。というのも、人面犬が捕獲されたり写真などに撮られることはなかったからだ。
人面犬の出現はマスメディアが仕掛けた?
とはいえ、人面犬の出現にはもちろん、いう噂もある。マスメディアの仕掛説とその詳細を知る人物がいる。
「超現実映画研究家」の肩書きを持つ、ホラーSF映画研究家、聖咲奇さんその人だ。この世界では知らぬ者なしの存在である。そして巷の噂では、万人面犬騒ぎの仕掛人ともいわれている。実際は、どうなのか。