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隙間女を見た男

投稿日:2018年4月9日 更新日:

隙間女を見た男

「隙間女」は、今や、稲川淳二に次ぐ「怖い話」の語り部・桜金造の代表作のため、彼の体験を脚色したものを彼自身が語って広めたと信じられているが、実は元ネタらしきものがある。江戸時代の民間伝承を集めた『耳袋』が、それである。

隙間女の起源

やすもり作者は、根岸鎮衛(1737ー1815年)。
全日巻、各巻100話、したがって1000の話が綴られている。

話は、街談巷説奇聞の類い。
1782年ころから書きはじめ、死の前年1814年に筆をおいている。

根岸は幕臣で、佐渡奉行、勘定奉行を経て1798年から町奉行をつとめている。内容は多彩。

怪談、笑い話、艶笑謂、英雄・豪傑の逸話、よく効く薬、人情話、狐や狸に化かされた話、教訓話など、ありとあらゆる分野にわたり、面白い話、聞いてそのまま忘れるにはあまりに惜しい話ばかりが集められている。

隙間女の起源となる耳袋の話

なかには本当か、と首をひねりたくなる話もあるが、とにかく面白い。あくまで話の面白さ、著者が受けた感動、感慨をそのまま伝えようとしていることがうかがえる。そのなかの一話に「隙間女」とよく似た話がある。

一人暮らしをしている青年が、部屋の中でだれかの視線を感じた。

もちろん、部屋には彼のほかにはだれもいない。気のせいかなと思って、彼はそのことを忘れてしまった。

ところが、その日以来、彼は毎日のように部屋の中でだれかに見つめられているような感覚に襲われるのだった。
彼の部屋は2階なので、外から覗かれるとは考えにくい。

部屋のどこかにだれかが隠れているのではないかと思い、家捜ししてみたが、もちろんその努力はむだに終わった。俺はおかしくなってしまったのだろうか。

ある日のこと、そんなことを考えはじめるようになったとき、彼はついに視線の主を発見した。

たんす彼の部屋の箪笥と壁の間にあるほんの数ミリの隙聞の中に女が立っていて、じっと彼を見つめていたのだ。

桜金造のバージョンでは、一人の男の無断欠勤からはじまる。心配した仲間が電話をしてみたが、いっこうに連絡がとれない。
そんな状態が一週間も続いたので、みんなで彼の家まで行ってみた。すると、彼は家にいた。

部屋の中はそこいら中、散らかり放題となっている。聞けば一歩も外へは出ずにずっと家の中にいたという。
仲間の一人が、「いいからここから出よう」と誘うと、「だめなんだー動いちゃだめだっていうから、だめなんだ!」と彼はいった。

みんな不思議に思って、「だれがそんなことをいうんだ」と訊くと、台所の冷蔵庫の隙聞を指差して、「あそこにいるんだよ」と、彼がいった。
見てみると、隙聞から赤い服を着た女の人がこちらをじっと見つめていた。

隙間女の真相

この話は、今の時代の一部の若者たちに蔓延している気分を表現してはいまいか。
それは、しずかに流行りはじめているある病気に象徴されそうだ。

その病気とは、「慢性疲労症候群」。
敵米では的年代から注目されはじめ、現在では米国だけで400万人以上が発症している「隠れ流行病」とまでいわれている。

日本では約1000人に3人の割合とされ、患者の約3パーセントが女性。
とくに初代後半から初代の高学歴でまじめな女性がほとんどらしい。

症状は、筋肉痛や関節痛、微熱、頭痛、低血圧、思考力低下・物忘れ・うつなどの症状、食欲低下、不眠・眠り過ぎなどの睡眠障害、胃腸のトラブル、そしてなにより、激しい疲労感

こうした症状はインフルエンザや他のウイルス感染に似ており、他の疾患と間違われやすく、医師の診察や検査を受けても異常が見つからないため、「心身症」とか「うつ病」と診断(誤診)されることが多い。周囲からは単にさぼっているだけと見られやすく、発症者には辛いばかり。

ここに述べた症状は、この一人暮らしの男の様子と一致しまいか。「隙間女」は、時代の象徴的な意味合いを持った話なのかも知れない。

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