口裂け女の話
口裂け女が、多くの子供たちを脅えさせはじめたのは、1978年ロ月頃からである。
出現のパターンは、おおむねこうだ。子供たちが学校から帰って塾に行き、終わって帰りがけの黄昏時、長い髪にマスクをした女が現れ、子供たちに近づくと、「わたし、きれい?」とたずねるのだ。
きれいだと答えれば、マスクをパッとはずして、
「これでも、きれい?」と、真っ赤な口が耳まで裂けた顔を見せるというのである。
「きれいでない」と答えると、子に持った鎌でばっさり殺されると』口裂け女から逃げるためには、ポマードという言葉を三回となえるといいとか、べつこう飴を差し出すしかないといわれる。
べつこう飴は口裂け女の好物で、これを食べている隙に逃げ出すというわけだ。
一気に広まる口裂け女の話
マスコミの報道も手伝って、騒ぎは全国的に広がり、脅えた子供たちはいっせいに登校を拒否した。
北海道では集団下校が行なわれ、騒ぎにパトカーが出動した町もあった。
しかし、口裂け女は見つからず、子供たちの噂にすぎなかったと結論されたのである。
とはいえ、目撃した子供たちの脅え方は尋常ではなく、見たことは事実としか考えられなかった。
そこで、一部の心理学者は、目撃者がだいたい小学校3年生や4年生という、いつも母親を怖いものと感じている子供たちが多かったことから、母親に対する恐怖心が口裂け女の幻影を見させたのではないか、と分析したのである。
ガミガミいう母親は、口裂け女のように、口だらけの顔に見えることは想像に難くない。
口裂け女の特徴
その口が耳まで裂けた女性の姿は、伝統的な妖怪、山姥のイメージによく似ている。
漫画やテレビアニメなどで見たこうした妖怪の姿が子供たちの心のなかで現代的にアレンジされて登場したのかもしれない。
口裂け女のケースは、早くからマスコミが取りあげ、煽ってさえいる。
暗示にかかりゃすい小さな子供たちがマスコミによって洗脳されたという側面が見受けられる。
だからこそ、全国にわたって多くの子供たちが口裂け女を目撃したのではないだろうか。
その一方で、口裂け女陰謀説もある。
口裂け女陰謀説
アメリカ在住の都市伝説研究家は、事件の真相について、こう推理する。
「1970年代の終わりに自衛隊が口コミ情報の速度を計る実験を行なったという情報がありました。
それは、青森駅前で偽の情報を流し、それが鹿児島まで伝わる時間を計測するというのが目的だったといいます。
驚いたことに、この実験には在日米軍とCIAがからんでいたらしい。つまり、群衆心理やデマに関する実験だったようです」
実験に使われた情報データが口裂け女の話だというわけだ。
情報伝達の速度はもちろん、内容がどう変形されて伝わるか、すなわち情報伝播にあたって、日本人独特の傾向があるのかを探ろうとしたらしいのだ。
となると、口裂け女の発信地は青森ということになるが当時の記録を調べてみると、口裂け女が初めてマスコミに登場したのは、1979年1月某日の「岐阜日日新聞」で、岐阜県加茂郡八百津町で出現となっている。
夜、母屋から離れたトイレに立った農家のお婆ちゃんが、耳まで口が裂けた女と遭遇して腰を抜かした、という記事だ。
これを受けて、「週刊朝日」1979年3月お日付に口裂け女が登場、「週刊朝日」1979年6月初日付では、「岐阜県八百津町で発生」となる。
しかし、実際には口裂け女の噂は、その前年からあったものだった。
本当に岐阜県が発祥地だったのか?たまたま、口裂け女のマスコミ初登場が岐阜の地方新聞だっただけではないのか、という意見もありそうだ。
しかし、これだけをとっても、いかに口裂け女が神出鬼没だったのかがよく分かる。
口裂け女のモデルは存在した
この口裂け女には、実はモデルがいたとも伝えられている。
それは明治時代中期、滋賀県信楽に実在した「おつや」という女性がそうだという。
彼女には、山ひとつ隔てた水口という町に恋人がいた。
女ひとり山道を行くには物騒だ。そこで、「口裂け女」に化けた。
つまり、白装束に白粉を塗りたくり、髪をかき振り乱して頭にロウソクを立て、さらに手には大鎌を持って、口には何故か三日月型に切った人参をくわえるという出で立ちで、ひとり峠を越えたという。
受験競争が激しかった1970年代、塾に通いたいとだだをこねる子供をあきらめさせるために、貧しい母親がこの話を思い出して、『塾に通うと帰りの夜道で、口裂け女に襲われるから、行かない方がいい」と子供に聞かせた話が口裂け女の登場するきっかけではないか、ともいわれている。
だから、口裂け女は塾を介して子供達に広がり出したというのだ。
口裂け女の現在
1979年6月までに全国に広まっていった噂話は、8月になると沈静化した。
子供たちが夏休みに入り、情報の伝達がなくなったからだという。日本都市伝説の代表格ともいわれるH口裂け女ヘ2004年には、韓国で「赤いマスクの女」として、新たな都市伝説を生んでいる。