足なし幽霊カシマさん
赤マント同様、日本各地の小学校のトイレに現れる両足のない女性の幽霊が、カシマさんである。
深夜に出没するところも、質問ぜめのうえ、うまく答えられないと足を抜いてしまうところなども、よく似ている。
質問の内容は、次の3つのパターンのうちのどれか一つ。
足なし幽霊カシマさんの質問パターン①
まず、「私の足はどこにありますか」と聞いてくるパターン。
「名神高速道路にあります」そして、「だれに聞いたのですか」と聞いてくるので、「カシマレイコさんに聞きました」と答えれば、幽霊に足を抜かれることはない。
足なし幽霊カシマさんの質問パターン②
二つ目は「右足いるか?」と聞いてくるパターン。
「いる」と答えればOK。「いらない」と答えると足を抜かれる。
「左足いるか?」と聞いてくるので、「いる」と答えればOK。
さらに「この話、だれに聞いた?」と聞かれたら「カシマレイコさんに聞いた」と答えると、危害を加えられない。
足なし幽霊カシマさんの質問パターン③
三つ目は、夢にカシマレイコが現れ、「足がいるか?」と聞いてくるパターン。「いらない」と答えると、足をとられてしまう。「いる」と答えて、「カシマさんのは悪魔のがまん」と呪文を唱えれば助かるという。
足なし幽霊カシマさんの正体
この話を聞いて、筆者は、「カシマさん」は、もとは男性だったのではないのか、という推理にとらわれた。
そう考えたのは、筆者が少年のころ、ハチ公前広場でよく見た、傷疾軍人の哀れな姿であった。
戦地で手や脚を失った彼らは、身を路上に晒して施しをこうていたのである。
その姿と、「足いる?」という質問の言葉が、カシマさんが男性であってもおかしくはないとの思いに繋がったのだ。
実際に、兵士姿で足を取りに来るという「カシマさん」の話が残たけみかづちっている。こちらは、武神・軍神の武聾槌神を杷った鹿島神社との関連がいわれている。
時代が変わり、街が変わり、人々の生活が豊かになるとともに、周囲の人々から腫れ物に触るような扱いを受けていた傷疾軍人は、居場所を失い、街の周縁へ追いやられ、ついには渋谷の街角から消えていった。
「カシマさん」が現れたのは、この時点であると思う。
そして、四肢の欠損というショッキングな姿はそのまま、女性優位の社会情勢を反映して、女性型の「カシマさん」が登場したのである。
脚へのこだわりも、女性ならではなかろうか。美脚といういい方があるように、女性の脚は強いセックスアピールをする箇所であり、男性の関心を集める箇所である。であれば、脚に強い執着を持つ女性があっておかしくはない。
あるいはカシマレイコとは、悲惨な事故や事件で脚を失った女性だったかもしれない。自慢の美脚をなくして死んだあとも妄執を抱いて亡霊となって、なくした美脚の代わりを求めてトイレの中の人を質問責めにしているのかもしれない。そんな仮説を胸に、大館氏は、今夜も深夜のトイレに立つのだった。