アメリカ東海岸のニュージャージー州南部のパイン・パレンズと呼ばれる広大な森林地帯には、同州で一番有名な州民が住んでいる。
その名はジャージー・デビル。コウモリの翼をもった馬という姿の怪物は、過去260年間にわたり、2000人もの人々に目撃されてきた。伝説は、以下のような逸話から始まった。
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ジャージー・デビル伝説の起源
1735年、スミスビルという衝に住んでいたリーズ夫人が子供を妊娠した。激しい陣痛に耐えかね、思わす罰当たりなことを口にしてしまった。
「こんな子は悪魔になればいい!」人間とは現金なものだ。
あれだけ苦しんだのに、生まれたばかりの赤ん坊を腕に抱いた瞬間、あまりのかわいさに、リーズ夫人は自ら口にした呪いの言葉をすっかり忘れてしまった。
ところが、赤ん坊は母親の腕の中で徐々に変身していった。
顔が長く伸びはじめ、コウモリあるいは馬を思わせる形となった。肩一甲骨の下からは長く黒い翼が生えはじめた。
足は伸び、どんどん細くなって、つま先が馬のひづめのような形に変わった。そして、手の爪は長く鋭く伸び、見開いた青い瞳は黄色く変わった。
もはや人間の赤ん坊の姿ではなくなった。それは耳をつんざくような叫びを上げたかと思うと、天井と屋根を突き破って夜空に飛び立った。
ジャージー・デビル伝説の話は他にも存在する
ここで紹介した話のほかにも、「ジャージー・デビルはサタンが人間と交わった結果生まれた魔物だ」とか、「妊娠中の女性が物乞いをした漂泊者を冷たくあしらったため、呪いをかけられた末に悪魔の子を産んだ」とか、実にさまざまな逸話が語り継がれている。
どの話が真実なのか、それともすべて虚伝なのか、それはわからない。
ジャージー・デビルの特徴
共通しているのは翼の生えた獣というジャージー・デビルの外見だ。誕生以来今日に至るまで、多くの人がその姿を目撃している。
1816年には、ナポレオンの兄弟でスペイン国王を務めたジョゼフ・ボナパルトが、広大な敷地内で狩猟中、2度も奇妙な生き物を目撃し、日記に記録を残している。
1909年、ブリストルという街に住むサック・コゼンズという男が、羽が生え、両目が光る生物がが飛んでいるのを目撃。
同日、ブリストル郵便局局長も、鳥の体に馬の頭がついた生物が奇妙な鳴き声で飛び回るのを目撃。
その後は、1927年、タクシー運転手が車のタイヤを交換中、森の中から全身毛に覆われた怪物が現れて車の屋根に上り、車体を激しく揺らした。
そのあまりに恐ろしい姿に、運転手は車を置いて逃げだしてしまったという事件が報告されている。
この事件以来、世にも恐ろしい鴫き声を上げ、コウモリの羽を生やした馬のような生き物というジャージー-デビルのイメージが定着。
1930年代を通じ、目撃証言が増大。事態を憂慮した州政府当局は、非常事態宣言を発令。州全土で、日没後の外出を控え、家畜を安全な場所に入れるよう指示が出されたのだ。州内の新聞は、毎日のように目撃談が記事となり、住民の恐怖感を煽った。
ジャージー・デビルがマスコットキャラクター?真相は
怪奇謂の主人公だったはずのジャージー・デビルは、ニュージャージーを代表するキャラクターとして全米規模で知られるようになった。
だが、1950年代までの目撃証言は信憲性が低いという事実がある。
売名目的での証言がいくつも暴露されたのだ。
信用すべき目撃証言が出てくるのは、1960年代以降。
1961年、パイン・パレンズで2組のカップルがダブルデートをしていて車内にいたとき、突然車の屋根が何物かに破られた。驚いた4人は車を置いてそのまま逃げたが、少したって現場に戻ると、コウモリのような翼を持った怪物が鋭い鳴き声を上げながら上空を飛んでいたという。
1970年代に入ると、本格的な調査が開始され、多くの研究家が詳細なレポートつきで目撃例を紹介するようになり、1980年代には、足跡などのか物証μが目撃の信源性を裏づけるようになった。さらには、警察官や政府関係者といった、売名を目的とは考えにくい人物たちが次々と目撃を報告するようになった。
ジャージー・デビル伝説の現在
現在ではどうか。
実は地元では、すでにジャージー・デビルは単なる伝説上の生物ではなくなっている。
インターネットには、ジャージー・デビルに関する自分だけのエピソードを語るという掲示板があり、患者を搬送している救急隊員が州道を横切るのを目撃したとか、狩猟で仕留めたシカをさらわれたとか、パイン・パレンズ周辺の住人たちの間で、ジャージー・デビルに関する目撃話が日常会話レベルで交わされている。
そして、ジャージー・デビルの正体を解き明かそうというグループ「ザ・デビルズ・ハンターズ」が登場している。
彼らは、目撃レポートの作成、目撃者へのインタビュー、そしてパイン・パレンズで行う、正ノビル・ハンティングという具合に多岐にわたる活動をしている。
彼らはこれまでの活動で、いくつか仮説を構築している。
カナダヅル誤認説、翼竜の生き残り説、ドラゴン説、亜種チュパカブラ説、そして超常現象説の5つだ。リーダーを務めるローラ・ルーターは、こう自説を展開する。
「調査を通じて得た結論は、未発見の生き物だということです。知能は犬より高く、夜行性で肉食です。外見は恐ろしいけど、かなり臆病だと考えられます」
専門家の意見はどうだろうか?著名な未確認生物研究家ローレン・コールマンは、こう語っている。
「ジャージー・デビルは、ニュージャージ州内に棲息している未確認動物の総称ではないだろうか。
姿にしても、コウモリの羽を生やした馬から、全身毛に覆われた直立歩行生物といろいろだ。
見慣れない生物を見た人々が、奇異なものという意味でジャージーデビルと呼んだ可能性が高い」1990年代後半から2000年代にかけては、かつてのような耳目を引く目撃例は皆無に等しい。ジャージー・デビルは、ジャージーの風土が生んだ伝承にすぎないのだろうか。そうではない。
1993年四月には、ニューいや、ジム・アーウィンという森林警備隊員が林道をパトロール中、体長2メートル、全身を黒い毛で覆われた怪物と遭遇するなど、目撃は現在でも散発的に続いているし、家畜が襲われるのも完全に止んだわけではない。
目撃者がいるかぎり、ジャージー・デビルの存在を否定することはできないだろう。
ジャージー・デビル伝説の真実
パイン・パレンズに、人知を超えた何かが棲みついており、過去200年以上にわたって周辺住民を恐れさせつづけている。それは事実なのだ。
長きにわたって人の口に上りつける話には、一抹の真実があるような気がしてならない。
ジャージー・デビルは今この瞬間も、パイン・パレンズの森の奥深くで息を潜めているのかもしれないのだ。